こんな天地人が見たかった!5

1日曜8時の名無しさん2014/01/19(日) 21:10:52.37ID:I3lBvJob
いつも国替えは突然じゃな。

334日曜8時の名無しさん2019/01/02(水) 22:49:56.68ID:pXjpItD9
第四十六話「文禄」(31)

「ところで本能寺の後、筒井順慶殿は、なぜ明智に加勢しなかったのじゃ」
軍学者にでもなるつもりなのか、上杉景勝、島左近に取材を続ける。
「本能寺の当日、われらは明智軍本隊の出陣に、後続して出陣する予定で、郡山城に
八千の兵を集結しておりました」
「明智本隊は一万三千、それに筒井勢八千が加われば二万一千。それに細川勢が加われ
ば、中川・高山など摂津勢も加わる。さすれば、三万にはなる。中国大返しで、疲労困
憊の羽柴勢と、五分の勝負ができたのではないか」
「郡山城に、本能寺の報が届いたのは、昼頃でございました。あまりの事態に驚いたもの
の、事態に即応するために、順慶の弟を大将とする部隊を派遣し、情報の収集を図ったの
でござりまする。この部隊は、明智軍の近江平定にも参加しました」
「しかし、すぐに兵を戻しておるのではないか」景勝、何でそこまで詳しいのか。
「ははっ。大坂に集結中でありました四国遠征軍を攻撃する準備のためでござりまする。
二万の陣容であった四国遠征軍は、本能寺の報が伝わると、信孝様と丹羽殿の直臣のみの
五千に激減しておることは分かっておりましたゆえ、ゆるゆると準備を進めていたので
ございまする」

335日曜8時の名無しさん2019/01/02(水) 23:24:29.50ID:pXjpItD9
第四十六話「文禄」(32)

「近江平定に続いて、大坂の四国遠征軍を撃滅すれば、畿内平定も目前じゃ。明智は天
下人になるということじゃな」
「明智の出身地である美濃の諸豪族も、明智に靡いておりましたから、時さえ味方すれ
ば明智殿は天下人になったでしょうな」
島左近も、調子を合わせる。
「ところが、その時、羽柴秀吉殿からの使者が郡山に到着したのでござりまする。
すでに、尼崎に到着したと、これには驚きました。何百里も離れており、毛利の大軍と
対陣中の羽柴軍が、まさか、この速さで戻ってこれるとは、想像もつきませんでしたな」

336日曜8時の名無しさん2019/01/16(水) 21:45:10.68ID:18GZXNMq
第四十六話「文禄」(33)

「筒井家は、大和の国でも、指折りの由緒正しき家でござりまする。
大恩があっても、謀反人の味方をするような危ない橋はわたれませぬ」
細川殿も、同じ思考なんじゃろうね。
「ふうむ。噂と真実は、かなり違うというわけか」
景勝、島左近に酒を勧める。
「織田家中は、野心満々な有能な武将がひしめいており、みなみな信長公の掲げる天下
布武のため、功名をあげようと日夜奮闘しておったわけか。関白殿下、もとい太閤殿下
は、そのなかで頭角を現しついに天下をとったお方じゃ。その気質は変わってないと
いうことなんじゃろうか」
いつになく雄弁な景勝、傾聴に値する仮説を述べる。
「功なり、安逸を願った、佐久間殿は追放され、嫌気がさした明智殿は、謀反を起こした
わけか」
考えてみれば、天下布武など、だれも考えぬ壮大な夢じゃ。
太閤殿下は、信長公の夢に今なお動かされておるんじゃろうか。

天正二十年三月、全国の大名に征明のための動員令が発令される。

337日曜8時の名無しさん2019/02/20(水) 23:10:24.72ID:FEHBmTcQ
第四十六話「文禄」(34)

「お屋形様、ここが壇之浦でございまする」
赤間ケ関から海を渡って九州に向かう上杉勢である。
「ふうむ」好奇心が抑えきれない景勝。
船の上をうろうろ歩き、まわりの景色をきょろきょろ見る。
そして、海面をじっと見つめる。
「やはり、潮流が変わる前に、源氏の水軍を殲滅できなかったことが平家の敗因か」
幼いころからよく聞いた平家物語であっても、現地で思い出すのは格別のようである。
「動かない味方の軍勢が邪魔じゃったようでござりまするな」
「槿花一朝の夢というところじゃな。人の運命は儚いものじゃ」

338日曜8時の名無しさん2019/02/26(火) 23:00:23.61ID:p/Ih0H5C
第四十六話「文禄」(35)

「これが名護屋城か。大阪城より大きいかもしれぬな」
天正二十年四月下旬、上杉勢五千が肥前・名護屋城に到着する。
「黒田官兵衛殿の縄張りじゃそうです。黒田殿は、何事も一切手抜きせぬ御仁のよう
でござりまするな」
上杉主従は、黒田官兵衛に挨拶に行く。
「おお、上杉殿、遠路はるばるご苦労なことじゃったな。
太閤殿下も数日のうちに到着されることとなっておる」
「戦況はどうなっておるのでござりまするか」
兼続が質問する。
「対馬の宗を道案内に小西行長殿の率いる一番隊は、四月一日に出陣、朝鮮上陸に成功
し、朝鮮の都を目指して、快進撃を続けておるとの報告がきておる」
ほほお。
「二番隊は加藤清正殿、三番隊はせがれ長政と大友殿、四番隊は島津殿、五番隊は福島殿・
長曾我部殿・蜂須賀殿、六番隊は小早川隆景殿、七番隊は総大将宇喜多秀家殿、ここまで
が戦闘部隊じゃな。あとは、占領地の治安維持の部隊となる」
ほお。
「それがしも、宇喜多殿の軍監として朝鮮に渡ることとなっておる」
ほお。
「約二十万の先手が朝鮮を平定したら、太閤殿下も渡海されることとなろう。
上杉殿は、おそらく太閤殿下とともに渡海されることになるのではあるまいかな」
ほおお。
黒田官兵衛、いつものように親切だが、得体のしれない雰囲気を漂わす。
本気で言っておられるのじゃろうか。
加藤清正や福島正則など、太閤殿下・子飼いの武将は、張り切っておると聞いておるが。
黒田殿は、そこまで単純ではあるまいに。
熾烈な権力闘争を生き抜くためか、なかなか本心をみせない黒田官兵衛である。

339日曜8時の名無しさん2019/03/11(月) 23:06:13.90ID:7IuIv+Cd
第四十六話「文禄」(36)

「みなみな、大儀」ご機嫌な秀吉が名護屋城に到着した。
「都が落ちれば、朝鮮の王も、われらとともに、明に攻め入ることを承知するじゃろう」
大広間に諸将を集めて、大演説する秀吉。
「明との大戦には、わしが出ていかねばなるまい。
その時は、徳川殿や前田殿に、働いてもらうことになるじゃろ。よろしく、頼む」
名前を出された徳川家康と前田利家、にっこり笑って、平伏する。
反論も、さりとて賛成もしない、二人の老巧ぶりに感心する兼続である。

340日曜8時の名無しさん2019/03/31(日) 16:45:45.12ID:cIwvUsVH
三才

341日曜8時の名無しさん2019/05/05(日) 23:44:24.99ID:eWv3VIV7
第四十六話「文禄」(37)

天正二十年五月二日、小西行長の率いる第一軍は漢陽に入城した。
「朝鮮の都が落ちたようじゃ。秀次に出陣の支度をさせるのじゃ。
わしも、すぐに渡海して、明を平らげるつもりじゃ」
漢陽陥落の祝宴で秀吉の怪気炎は最高潮に達する。
「明後年には、帝にも明の都へ行幸を仰ぐこととなろう。その準備をいたせ。
秀次は、明の関白になってもらうつもりじゃ」
先の先まで考えておられるようじゃな。
これでは、天竺に攻め込む話も、出まかせというわけではないようじゃな。
朝鮮平定を目前にした太閤殿下は、有頂天になっておられる。
予想以上にもろい朝鮮軍、このまますらすらことが運ぶのじゃろうか

342日曜8時の名無しさん2019/06/12(水) 15:19:57.61ID:Q2TkHPKT
上杉謙信 阿部寛
上杉景勝 北村一輝
直江兼続 岡田准一
徳川家康 寺尾聰
豊臣秀吉 岸谷五朗
新発田重家 渡部篤郎
本庄繁長 松重豊

343日曜8時の名無しさん2019/06/14(金) 23:13:05.84ID:GtIraNjR
第四十六話「文禄」(38)

「石田、戦況はどうじゃ」
石田三成の詰めている戦闘指揮所に偵察に行く。
大きな朝鮮半島の地図が部屋の中央にあり、朝鮮八道が色分けされている。
「小西は、加藤清正より早く朝鮮の王に会わねばならぬと、昼夜をわかたぬ強行
軍で都に突入したのじゃが、王は都を捨てて、北のほうへ逃げたそうじゃ」
戦勝の報が続々届いているのに、石田の顔色は冴えない。
「太閤殿下のご出陣は何時ごろになるのじゃろうか」
われらも出陣せねばならぬからな。聞いておかねばなるまい。
「実はな」
さらに曇る石田の顔。
「藤堂高虎殿の輸送船団が、やられた」
なんと。

344日曜8時の名無しさん2019/07/15(月) 22:23:10.82ID:ojsbSgvc
第四十六話「文禄」(39)

「徳川殿や前田殿が、太閤殿下の渡海に強硬に反対しておるのじゃ」
ふうむ。
「制海権がないのに、太閤殿下が渡海されるのは危険じゃろ」
「徳川や前田は、自分が渡海したくないから、反対しておるのじゃ」
ううん。
「そなたは、太閤殿下に渡海してもらいたいのか。ただでさえ、ややこしい戦なのに
さらに、こんがらがるのではないか」
「大体、すでに十数万の兵が送られておる。さらに十万の大軍を派遣して、兵站は
大丈夫なのか。朝鮮の都・漢城に直接輸送船が入れないければ、釜山から入れるこ
とになる。輸送するといっても、輸送部隊が食料を食い尽くすことになりはせぬか」
しかし石田は納得しない様子。
「太閤殿下に直接戦をご覧いただけば、明敏な太閤殿下のこと、すべてを理解される
のではないじゃろうか」
「この戦が無理な戦ということか」
ふうむ。石田の言にも一理あるようじゃな。
「ともかく、朝鮮水軍を撃破することが先決じゃ」
忙しそうなので、
「島左近を上杉の陣所に寄こしてもらいたい。戦の全容を知りたい」
「おお、左近の手がすいたら、すぐに行かせる」

345日曜8時の名無しさん2019/08/26(月) 22:19:32.56ID:hs1vQs30
第四十六話「文禄」(40)

孫子の想定する戦は、前提として十万の軍勢の動員・敵国内への長駆侵攻・長期持久戦・
国力を傾ける総力戦と規定されておるが、まさしく征明の戦は、孫子の想定する戦じゃな。

名護屋城下に点在する陣屋のなかで、なぜか景勝と別の陣屋を与えられた兼続、孫子を
ひも解きながら考えている。
勝利を積み重ねても、これを講和に結びつける外交努力がなければ、勝利は却って凶事
となる。果てしない消耗戦に巻き込まれるだけじゃからな。
ともかく、速戦速勝じゃ。いや、勝てなくても、早く戦を終わらせねばならぬ。

太閤殿下は、どのような講和を考えておられるのじゃろ。
太閤殿下は、利に聡いお方じゃ。
もともと、木綿針を商うて諸国を漂白しておったというお方じゃからな。

大坂を中心とする巨大な交易圏を構築することが最終目的なのじゃろうか。
唐天竺から商船がひきもきらず、殷賑を極める大商業都市を頂点とする
新しい経済体制を造ろうとされておられるのじゃろうか。 

唐天竺を服属させる論理、唐天竺の者どもを服属させるためには、利を与え
ねばならないじゃろ。

考えあぐねる兼続である。

346日曜8時の名無しさん2019/09/16(月) 23:21:14.65ID:YgGAhwVM
第四十六話「文禄」(41)

「島左近殿がお見えです」
「お通しせよ」

「水軍が敗れた戦の詳細がわかりました」
なんと。
「詳しく教えてくださらぬか」
「なんでも、全羅道の朝鮮水軍が釜山付近まで出撃してきて、藤堂高虎殿の輸送部隊を
強襲したとのことでございまする」
「釜山は、遠征軍の根本の地。ここを奪回されれば、根元を切られた木のように、わが
軍は滅びることになるじゃろうな」
「釜山の防備を固めねばなりますまいな」
ここで島左近、兼続のもてなしの酒を一口飲む。
「ところで近いうちに正式に発表されますが、太閤殿下は、渡海を延期され、かわりに
わが主君・石田三成などが、軍監として派遣されることになりまする」
「だれか、前線部隊の総司令官のような方を派遣されるつもりはないのじゃろうか」
「太閤殿下のご猶子・宇喜多秀家殿が総司令官でございまする」
「宇喜多秀家殿・小西行長殿・加藤清正殿、みな、若すぎるし、貫目がたりぬな。
それがしが想定するのは、亡き秀長公のようなお方じゃ。徳川殿か、前田殿くらいの
声望のある人が出陣せぬと、おかしなことになるんじゃなかろうか」
しかし、それはそれで危険じゃな。派遣軍を掌握すれば、太閤殿下以上の軍事力を
もつことになる。とくに、徳川殿に任せることは、危険すぎるじゃろうな。
心の中で、自分の発言を否定する兼続である。

347日曜8時の名無しさん2019/09/17(火) 22:21:17.29ID:SLHXj+BU
第四十六話「文禄」(42)

「戦は、どうなるのじゃろう」
「これをご覧くだされ」
島左近、朝鮮八道の地図を広げる。
「京畿道・宇喜多秀家、忠清道・福島正則、全羅道・小早川隆景、慶尚道・毛利輝元、
黄海道・黒田長政、平安道・小西行長、江原道・森吉成、咸鏡道・加藤清正」
兼続、思わず声に出して読んでしまう。
「太閤殿下は、全軍を朝鮮全土に展開させて、兵糧を備蓄させ、明への進行作戦に
備えさせるお考えでございまする」
どうじゃろう。
食糧の備蓄というても、民草から見れば、それは侵略者による略奪じゃ。
「朝鮮の王は、どうなっておるのじゃろう」
「北の都も逃げ出して、朝鮮と明の国境あたりにおるようでございまするな」
明の援軍を待っておるのか。
「朝鮮を服属させるのであれば、全軍を展開させるよりも、朝鮮の王を虜にするほうが
手っ取り早いのじゃが」
「太閤殿下も、あてが外れたようでございまする。朝鮮の王には、堪忍分を与えて
優待するおつもりじゃったようでございまするな」
ふうむ。
「平安道に進軍した小西行長殿は、朝鮮の王と和睦交渉を進めておるようでございまする」
ふうむ。

348日曜8時の名無しさん2019/09/26(木) 23:13:04.42ID:o5bItu+a
第四十六話「文禄」(43)

「朝鮮の民衆には、派遣軍を解放軍と歓迎するようなところもあるようでございまする」
ふうむ。
「朝鮮には、城がたくさんあり、いずれも、ぎっしり食糧が備蓄されておるとのことで
ござりまする」
苛斂誅求ということかな。
「左近殿。そなたは李退渓や李粟谷という人物を知っておるか」
「いいえ」
「少し前になくなったのじゃが、二人とも朱子学の大家じゃ。
朝鮮は、朱子学の盛んなところじゃ。
朱子学は、大義名分を重んじる。
いかに、民衆に歓迎する風潮があっても、民衆を束ねる士大夫の階層は、王に対する
忠誠心しかない。朱子学は、そういう学問じゃ」
「なるほど」感心する島左近である。
「王を手中にしない限り、難しい戦になるじゃろうな」

349日曜8時の名無しさん2019/09/27(金) 21:42:25.83ID:dHUnd8un
第四十六話「文禄」(44)

豊臣秀吉の渡海が延期となり、代わって石田三成・大谷吉継・増田長盛が朝鮮に派遣さ
れることとなった。
「太閤殿下は、都にお戻りになられるようじゃ」
情報収集に余念のない上杉主従、情勢分析をしている。
「大政所様が御危篤と都の関白様よりご報告があったようじゃ」
上杉景勝、情報通のところをみせる。
「太閤殿下は、親孝行なお方じゃから、動転されておられるじゃろうな」
そうなのだ。肉親の情に厚いのだ。
やんごとなき方々と太閤殿下は違う。

350日曜8時の名無しさん2019/09/30(月) 00:45:01.90ID:Ha6sEZso
いだてん

351日曜8時の名無しさん2019/10/07(月) 22:41:36.11ID:yU6+AJBQ
第四十六話「文禄」(45)

「前線で戦っておる諸将のことを思うと、贅沢なこともいえぬのじゃが、暇じゃのう」
そうなのだ。
豊臣秀吉のいなくなった名護屋に駐屯する東国勢十余万は、やることがない。
「兵どもの士気はどうじゃ」
「はっ。兵糧は石田が融通してくれますので、安心ですが、水に困っておるようでございまする」
こんな片田舎に、いきなり、十万人が住むことになったのじゃから、いろいろと不都合もあるじゃろうな。
それがしは、やはり本を探さねばならぬ。方々に人をやって、お借りして書き写さねばならぬ。
足利文庫なみの大図書館を作るつもりなのか、直江兼続。

352日曜8時の名無しさん2019/10/09(水) 22:04:34.58ID:Mz86Fn64
第四十六話「文禄」(46)

「直江殿、元気にしておられたか」
急に前田慶次が訪ねてきた。
「わしは、大宰府に行ってきた、帰りじゃ」
どうせ、また和歌の名所めぐりかなんかじゃろ。

「ところで、梅北一揆の詳細は聞いておられるか」
「なんでも島津の家臣が、名護屋に向けて移動中に、肥後で城を占拠したとか」
さすがに、少しは知っている兼続である。
「残念なことに、首謀者が騙し討ちにあい、三日で鎮圧されたようじゃな」
いつものように遠慮のない慶次。ずけずけ、ものをいう。
「謀反が長引けば、征明どころじゃなくなるところじゃったのに」
こいつは、それがしが、心の奥底で、太閤殿下に反感をもっておることを見抜いておる
んじゃろうな。
「折角、天下一統がなり、太平が招来されたのに、またぞろ征明の戦とは、
秀吉は狂っておる」
酒もそこまで飲んでないのに、かなり危険なことをいう慶次。
こいつは太閤殿下の諜報機関が怖くないのじゃろうか。
前田利家様が言わせておるんじゃろうか。
いや、こいつは、そんなむつかしい腹芸ができる男じゃないな。
純粋に理想的な武人であろうとしておるんじゃろうな。

353日曜8時の名無しさん2019/10/14(月) 23:15:11.97ID:EdUjCrVH
第四十六話「文禄」(47)

「ところで、先日の徳川とわれら前田の水争いをどう見られたか」
「戦になるんじゃないかと心配したが、流石うまく収められたな」
「徳川殿には、関東衆が味方し、前田には織田系の大名が味方にはせ参じた。
伊達のように、どちらについてよいか、まごついておったものも、おったがのう」
こいつ、上杉が徳川と前田、どちらにつくか、探りに来たんじゃろうか。
「われらも、伊達殿と同じじゃな。どちらか、一方に肩入れするわけにはまいらぬな。
前田様には、北条攻め、いや最初の上洛の時から、お世話になっておるわけじゃし、
徳川様は、先代・謙信公の頃より、対武田の同盟を組んで仲じゃ」
徳川も前田も、自分の勢力を広げようと角逐しておるのか。
太閤殿下の思う壺なんじゃろうけど。
徳川の対抗馬として、前田を引き立てようとしておるんじゃね。

354日曜8時の名無しさん2019/11/07(木) 22:50:13.67ID:81638CXs
第四十六話「文禄」(48)

「直江殿、どうせ暇なんじゃろ。
わしと大宰府や博多に行かぬか。蒙古襲来の史跡もあるようじゃ」
前田慶次、兼続の急所を衝いてしまう。
「そういえば、戦に敗れた足利尊氏公も九州まで落ち延びて、軍勢を立て直し、
京にのぼって幕府を開いたんじゃったな。多々良浜の古戦場も近くじゃなかったかな」
ふうむ。無聊をかこっておられる御屋形様もお誘いせねばならぬかな。
名護屋城の作事以外することのない上杉勢、うだるような九州の暑さにばてている。

万一、派遣軍が敗れて、明の大軍が攻め込んできたら、
戦場になるのは名護屋から博多一帯、九州北部じゃな。
兵要地誌を究めることが必要やもしれぬ。
それに、博多・大宰府は、古より大陸との交易で栄えた都市じゃ。
古い書物もあるんじゃないかな。

355日曜8時の名無しさん2019/11/07(木) 23:57:23.34ID:VSYSDczf
韋駄天

356日曜8時の名無しさん2019/11/14(木) 22:46:19.14ID:pdlrILcN
第四十六話「文禄」(49)

「御屋形様、この水城は博多湾一帯に作られていたようでございまする」
晩夏のある日、前田慶次とともに博多に来ている上杉主従である。
「想像以上の規模じゃのう。鎌倉の武士は、これで元の軍勢を防いだのか」
「これだけの石を集めるだけでも大変じゃったろうな。
それだけ最初の文永の役の敗戦が堪えておったのじゃろうな」
「文永の役では、博多まで占領されたようで、
そのため国力を傾けて防御を固めたのでござりましょう」
上杉景勝、軍記物の作者にでもなるつもりなのか、興味津々でいつもに増して多弁だ。
「これは、唐の時代の白村江の戦いの後に作られた水城を改良したもんじゃろうか」
前田慶次、目の付け所が深い。
「異国との戦いは、妥協のない戦になるんじゃな」
「相手の実像がわかりませぬから、何事も全力でやることになるのでしょうな」

日本は、あまりにも異国のことを知らなさすぎるのでないか。
国内であれば、どんな相手でも、相手の力を測ることができる。
しかし、異国ともなれば、国の大きささえ分からぬ。
やはり、こたびの戦は無理な戦じゃ。

「そういえば太閤殿下は、大政所様のご葬儀がすめば、戻ってこられるようじゃな」
太閤殿下に、渡海していただいて、この戦が無理な戦であることを理解してもらう
ほうが、手っ取り早いのかもしれぬな。
すべては太閤殿下のお心のうちにある。終戦にもっていく上手い方法はないのじゃろうか

357日曜8時の名無しさん2019/11/17(日) 22:31:01.78ID:2YQwHLVr
第四十六話「文禄」(50)

「実は、秀吉の代わりに叔父上(前田利家)が朝鮮に渡り、全軍の指揮を執るという
構想もあったそうじゃ」
ふうむ。
「それで、いろいろ朝鮮の事情を調べたのじゃが、やはり言葉が通じぬので往生しておる
とのことじゃった」
前田慶次、兼続に話すことで、景勝に聞かせている。
「それに、広いようじゃ。毛利殿は、広すぎて、占領地に展開させる兵が足りないと零し
ておるようじゃ」
派遣軍中最大の兵力・三万人を率いる毛利輝元殿でさえ、足りないということか。
言葉が通じないので、朝鮮の官吏を使えないのじゃろうか。
「ただ、相手は素人じゃ。鉄砲を撃ちかけると、算を乱して潰走するようじゃ」
ふうううむ。

358日曜8時の名無しさん2019/11/20(水) 22:09:04.89ID:vpESnIEu
第四十六話「文禄」(51)

「あと、立て札を建てて避難した住民の還住を慫慂しておるのじゃが、都市でも農村でも
山中に逃げ込んだままで、帰ってきておらぬ。種を蒔くものもおらぬ。畑の手入れをする
ものもおらぬ。刈り入れをするものもおらぬ。このままでは、飢饉が発生するじゃろうな」
ふうむ。
「やはり、言葉が通じないのは致命的じゃな。風俗も違うだろうし、何から何まで、統治
の障害となっておる」
一揆が起きるじゃろうな。よほど、腰を据えて戦わなければ目的を完遂することはできぬな。
「何十年も戦う覚悟がないと、勝てないやもしれぬな」

359日曜8時の名無しさん2019/11/21(木) 22:52:46.26ID:TKQ0hlCM
第四十六話「文禄」(52)

「太閤殿下は、明年渡海されると仰せのようじゃが」
景勝がぽつりと言う。考え事をしているようだ。
「ここが多々良浜でござる。足利尊氏公が楠木正成などに敗れて、九州に落ち延び、
再起を果たす、きっかけとなった古戦場でござる」
前田慶次が一行に説明する。
「菊池など南朝の軍勢は二万、それに対して尊氏公は、わずか二千。なれど、足利勢は
勇戦し、南朝に勝利いたした。この一戦に勝利した尊氏公は、九州を押さえて京に攻め
上ったのじゃ」
ふううむ。同じく、西国に落ち延びた平家は滅亡し、尊氏公は再起を果たしたわけじゃな。
「やはり、尊氏公は、時流に乗っておったのじゃろうな」
「時流そうですな、武士の欲するものを知っておった故、信望を集めえたのでございまし
ょう」
上杉主従、他のことを考えているようだ。

360日曜8時の名無しさん2019/11/22(金) 22:34:22.26ID:XA8asRVD
第四十六話「文禄」(53)

 戦乱を統一した権力は、外征を強行しておる。古くは秦の匈奴攻撃、隋の高句麗攻撃、
すべて失敗し、政権を失っておる。そして秦の後を継いだ漢、隋の後を継いだ唐が、何百
年も続く王朝を建てておる。
 戦乱を統一した権力・豊臣政権は、外征・朝鮮への出兵を強行ししておる。さすれば、
政権を失うんじゃろうか。そして豊臣の後を襲うものが、何百年も続く政権を建てるのじ
ゃろうか。それは、徳川なのじゃろうか。
 いや、そもそも、なにゆえ、戦乱を統一した権力は外征に打って出るのじゃろうか。
過信か、裁兵か。元寇は裁兵、亡ぼした南宋の軍隊をすりつぶす目的もあったじゃろうな。

361日曜8時の名無しさん2019/11/23(土) 23:16:05.36ID:3QnIdTMA
第四十六話「文禄」(54)

太閤殿下は、お元気じゃが、いつかはお亡くなりになられるじゃろ。
その時、天下は、どうなるんじゃろうか。
秀次公が、後を襲われるんじゃろうか。
太閤殿下は、ご自身が明に攻め込み、秀次公に日本を任せるつもりのようじゃが、
考えてみれば、反対のほうがよかったかもしれぬな。
秀次公は秀長公の代わりになれないんじゃろうか。
長久手の敗戦が、太閤殿下の心証を悪くしているんじゃろうか。 
兼続、とりとめない空想を続ける。
 

362日曜8時の名無しさん2019/12/04(水) 22:40:57.20ID:3vS3HH6t
第四十六話「文禄」(55)

「太閤殿下は、大政所様のご葬儀をすました後、十一月に名護屋にお帰りになられるそうじゃ」
景勝と兼続が情勢分析をしている。
「御渡海は明年になるようでござりまするな」
「うむ、われらも出陣じゃ。腕が鳴るのう」
上杉景勝、待ちくたびれて気が逸っている。

363日曜8時の名無しさん2019/12/22(日) 21:32:15.44ID:dhtp7Lyq
第四十六話「文禄」(56)

「直江殿、太閤殿下がお呼びでございまする」
なんじゃろ。
「おお、直江。久方ぶりじゃの」
名護屋城の大広間で秀吉に拝謁する兼続。
「そなたに、朝鮮経略の策を聞きたいのじゃ」
「はっ。信玄公は、在世中、甲斐国内に城を作らず、人は城・人は石垣と仰せになられた
と、うけたまわっておりまする。朝鮮で城を作ることも重要ですが、朝鮮の民草の心を獲
る方策が必要かと思われまする」
「具体的には、なんじゃ」
「はっ。士卒に至るまで、朝鮮の言葉を学ぶべきじゃと思いまする。言葉が通じれば、親
しみも湧き、無用な誤解をさけられまする」
「なるほど。ふうむ」
感心した様子の豊臣秀吉である

364日曜8時の名無しさん2019/12/22(日) 21:32:17.10ID:dhtp7Lyq
第四十六話「文禄」(56)

「直江殿、太閤殿下がお呼びでございまする」
なんじゃろ。
「おお、直江。久方ぶりじゃの」
名護屋城の大広間で秀吉に拝謁する兼続。
「そなたに、朝鮮経略の策を聞きたいのじゃ」
「はっ。信玄公は、在世中、甲斐国内に城を作らず、人は城・人は石垣と仰せになられた
と、うけたまわっておりまする。朝鮮で城を作ることも重要ですが、朝鮮の民草の心を獲
る方策が必要かと思われまする」
「具体的には、なんじゃ」
「はっ。士卒に至るまで、朝鮮の言葉を学ぶべきじゃと思いまする。言葉が通じれば、親
しみも湧き、無用な誤解をさけられまする」
「なるほど。ふうむ」
感心した様子の豊臣秀吉である

365日曜8時の名無しさん2019/12/22(日) 21:32:19.78ID:dhtp7Lyq
第四十六話「文禄」(56)

「直江殿、太閤殿下がお呼びでございまする」
なんじゃろ。
「おお、直江。久方ぶりじゃの」
名護屋城の大広間で秀吉に拝謁する兼続。
「そなたに、朝鮮経略の策を聞きたいのじゃ」
「はっ。信玄公は、在世中、甲斐国内に城を作らず、人は城・人は石垣と仰せになられた
と、うけたまわっておりまする。朝鮮で城を作ることも重要ですが、朝鮮の民草の心を獲
る方策が必要かと思われまする」
「具体的には、なんじゃ」
「はっ。士卒に至るまで、朝鮮の言葉を学ぶべきじゃと思いまする。言葉が通じれば、親
しみも湧き、無用な誤解をさけられまする」
「なるほど。ふうむ」
感心した様子の豊臣秀吉である

366日曜8時の名無しさん2020/02/22(土) 22:48:00.49ID:WM9/HC58
第四十六話「文禄」(57)

「わしが朝鮮に渡れば、すぐさま全軍を率いて明に攻め込むのじゃが。あんまり、時間を
かけすぎるのは、問題じゃな。兵糧が詰まっておるようじゃな」
「………」
「しかし、日本を任せられる者がおらぬのじゃ。関白は若年じゃし」
やはり秀長様がおられれば、前線の最高指揮官としても、後方の抑えとしても、適役じゃったな。
いや、秀長様が生きておられれば、そもそも朝鮮の役そのものがなかったじゃろうな。

367日曜8時の名無しさん2020/05/06(水) 22:46:06.63ID:Ml4yopSv
第四十七話「秀次事件」(1)

天正二十年は十二月に改元され、文禄元年となった。
「来年こそ、われらも出陣できるんじゃろうな」
お館さまも焦れまくっておられる。
名護屋在陣が半年以上続き、越後に逃亡する兵も続出しておる。
前線で苦労しておる西国の武将のことを考えると贅沢な話じゃが。
ここまで、出張って、このまま帰るわけには参るまい。

368日曜8時の名無しさん2020/05/17(日) 19:32:50.06ID:fyX425+x
第四十七話「秀次事件」(2)

「利休のやつ、わしが信長公に命乞いをしたところを見ておったはずなのに、自分は、
命乞いをせなんだ。命乞いなどせずとも、ひとこと詫びを言えば、即座に許したものを。
年寄りになればなるほど、意固地になるものじゃ」
文禄二年一月の或る日、名護屋城の茶室で、秀吉の接待を受けている上杉主従である。
太閤殿下は、利休殿を失ったことを残念に思っておられるんじゃね。
「そうじゃ。上杉謙信公が加賀に攻め込んできて、柴田勝家の援軍として、わしが派遣さ
れたときじゃ。柴田は、勇将じゃが大局観がない故、戦局が読めておらぬ。謙信公との決
戦を企図して、大軍をかき集めた。それで、上杉に勝てると思っておったようじゃが、勝
てるはずがない。一向門徒が、上杉に通じておるので、われらの動静は上杉に筒抜けじゃ。
それに、軍神・上杉謙信と戦うのであれば、信長公の出馬を仰がねばならぬのに、柴田は
自分が信長公に劣るとは思ってなかったようじゃった。笑止じゃ」
手取川の戦の話じゃな。お館様もそれがしも、留守番をさせられておった故、参陣できな
かったのう。無念じゃったな。
「決戦でもして、大敗すれば、どうなる。上杉の軍勢は、一向門徒を吸収して、雪だるま
式に大軍になって、安土城を包囲するじゃろう。さすれば、織田政権の崩壊じゃ。それゆ
え、わしは柴田に意見した。今は決戦の秋ではない。持久戦に持ち込むべきで、援軍も要
請するべきではなかった、と」
ふふふっ。秀吉が、笑う。
「大げんかになり、わしは自分の軍勢を率いて長浜に帰った。敵前逃亡・戦場離脱・命令
違反じゃ。よくて切腹・下手すりゃ斬首・磔の重罪じゃな。しかし、わしは帰った」
太閤殿下は、信長公の草履取りから出世されたお方じゃから、信長公の性格をわかって
おるゆえ、思い切ったことができるんじゃろうね。
「果たして、信長公は烈火のごとく激怒され、わしは謹慎を命じられた。自棄になった、
わしは、毎日酒を飲んで、遊んでおったわ」
いつ謝ったんじゃろうか。
「すると、松永弾正が謀反を起こして、出動を命じられて、命拾いしたのじゃ」
いつ、信長公に謝ったんですか?
「松永弾正は、信長公が上洛する前、三好家の重臣として天下を執権しておった男じゃか
ら、つねに信長公に対する謀反を考えておったようじゃな。信玄公が出陣したとき、謙信
公が出陣したとき、謀反した。考えの筋は悪くないのう」
それで、いつ謝ったのか、わからないまま、太閤殿下の話は、どんどん、それていく。

369日曜8時の名無しさん2020/05/17(日) 20:19:02.94ID:fyX425+x
第四十七話「秀次事件」(3)

「そういえば、明との戦の話は聞いておるか」
さすが太閤殿下、上杉景勝の性格を熟知している。
「昨年夏の戦の話でござりまするか」
景勝が食いついていく。
「朝鮮の北の都を占領しておった小西の軍勢に、明の騎馬隊など五千が強襲してきた」
ふうむ。
「突然のことじゃったし、小西の軍勢は方々に兵を分けておったので、苦戦したのじゃが、
七百の鉄砲隊が射撃を開始したら、明軍は壊滅した」
ふうむ。
「明の兵は、身長長大で全身を覆う鎖帷子のようなものを着た騎馬武者じゃ。刀は弾かれ
るが、鉄砲はやすやすと貫通する。三千の騎馬隊は、ほぼ全滅したようじゃ」
ふうむ。
「軍議で小西は、さらに追撃して明に攻め込むべきじゃと主張したそうじゃ」
慎重な和平論者の小西行長殿が、明に攻め込めとまで主張されるのであれば、
明との戦もたやすいもののようじゃな。
案ずるより産むがやすいのじゃろうか?
「小西は、平安道を制圧して朝鮮の王を捕まえなければならぬ、と主張したのじゃが、
他の者どもが、守りをかためることを決めた。明との戦が始まったので、慎重になった
わけじゃな」
焦れておるのか、言外に不満をみせる秀吉の言説である。
「朝鮮の派遣軍は、太閤殿下の御渡海を待って、大攻勢を考えておられるのでしょう」
現状は、どうなっておるのじゃろうか。
「明は大敗北に驚いて、和平を打診しておるようじゃ。小西が交渉を始めておる」
ふうむ。太閤殿下は、明が和平を申し込めば受けるおつもりなのじゃろうか。
「われらも、はよう出陣しとうござりまする」
「時が至れば、そなたらにも働いてもらうつもりじゃ。もそっと、待つがよかろうぞ」
御機嫌な秀吉である。

370日曜8時の名無しさん2020/06/03(水) 22:40:06.57ID:abWncc9s
第四十七話「秀次事件」(4)

ところが明の和平交渉の申し出は、時間稼ぎにすぎず、ひそかに大軍を終結させた明軍は
年明け早々、鴨緑江を渡り平壌を再強襲してきたのである。
朝鮮北部から九州名護屋までの情報伝達には四十日くらいかかる。
秀吉も上杉主従も、まだこのことを知らない。

二月中旬、明との戦の詳細が判明した。
「直江殿、明との戦のことを聞いておるか」
前田慶次、のんびりした顔をして、兼続の陣所に遊びに来た。
「いいや」
「大変な戦じゃったようじゃ」
酒席の支度を命じて、景勝を呼びにやる兼続である。

371日曜8時の名無しさん2020/06/14(日) 22:56:05.14ID:ajJoLGs8
第四十七話「秀次事件」(5)

「朝鮮の北の都、平壌というのじゃが、小西軍一万五千が駐屯しておるところに、明の騎
馬部隊四万余と朝鮮軍一万余、あわせて五万の大軍が攻め込んできたようじゃな」
ふうむ。パチリ。なんでか、退屈しのぎか、囲碁を打ちながら話す二人である。
「小西は、斥候を出しておらなんだか。昨夏攻められておるのに?」
「油断しておったようじゃな。相手の方からもちかけられた和平交渉じゃからのう」
パチリ。
「小西は、斥候部隊を薄く配置して、敵襲に備えておったようじゃが、朝鮮の軍に潰さ
れておったようじゃ」
パチリ。
「それに、朝鮮の寒さは格別で、夜通し火がなければ、みな凍死するほどの寒さのようじゃ」
うーん。冬でも春のような九州の兵では、耐え切れまいな。やはり、われらがでるべきか。
パチリ。
「おお、妙手じゃな。わしのこの石が死んだ」
「それで」
前田家は旧織田系の武将の中心じゃから、情報も早いんじゃろうな。

372日曜8時の名無しさん2020/07/01(水) 22:42:07.46ID:hvoKoC/l
第四十七話「秀次事件」(6)

「一隅を照らす」
パチリ。
「それを言うなら、一隅を守り千里を照らすじゃ」
パチリ。
最澄みたいなことを言う二人。囲碁に熱中している。
「明軍は昨夏の敗戦が堪えておるようで、此度は大砲を何百門も用意してきたようじゃな」
パチリ。
「それで、小西軍を猛攻撃じゃ。小西の軍勢も城壁に穴をあけて銃眼を作り反撃した。
明軍もバタバタと戦死したのじゃが、攻撃の手を緩めぬ」
パチリ。
「明軍は城内に入り込み、いたるところで、白兵戦となった。至近距離すぎて鉄砲も使え
ぬ状況となったので、内城まで退却した」
ふむ。パチリ。

373sage2020/09/06(日) 00:20:30.14ID:oU1Qzs38
第四十七話「秀次事件」(7)

柳成竜「懲録」は
「幸いにして賊は、平壌に入ってからのちは、数ヵ月にもわたって、城中に影をひそめた
ままであった…そのため人心はいくらか安定し、混乱のあとを収拾する一方、明国兵を迎
え入れ、ついに国土恢復の仕事をなし遂げたのである。これは実に天祐によるものであっ
て、人力の及ぶところではなかった」という。
 
小西軍が平壌を占領した後、追撃して朝鮮王を虜にしていれば、加藤清正が二人の王子
を捕虜にしたように、あるいはオランカイまで進攻したように、中朝国境まで、兵を進め
ていれば、と考えないでもないが、あらゆる意味で攻勢終末点を、越えていたのだと思う。

374日曜8時の名無しさん2020/09/18(金) 22:41:28.69ID:whlBuLLE
第四十七話「秀次事件」(8)

「明軍は犠牲を顧みず、猛攻撃を続けるので、内城に押し込められた小西軍は、全滅を
覚悟したようじゃが、流石明軍は兵法を心得ておるのう。夜になると潮を引くように撤
退した。小西は、その隙に河を渡って撤退した」
「囲師には闕を残し、か」
「完全包囲すると、囲まれた方は死力を尽くす、一角をわざと欠いて、そこから敵軍を
逃がし、それを追撃する魂胆じゃ。小西も、百も承知じゃろうが」
パチリ。
「平壌と漢陽の間には、後詰の兵が配置されておった。大友軍六千、黒田軍五千、とこ
ろが大友は、臆病風に吹かれて、すでに逃亡しておった。援護を期待して撤退した小西
の軍勢は、明軍の追撃で、数多くの犠牲を出した。何しろ、寒いのじゃ。鉄砲を撃とう
としても凍傷で指が落ちるような惨状じゃ」
ふうむ。パチリ。
「太閤殿下は激怒され、大友は改易とあいなった」
九州に覇を称えた名門も滅ぶときは一瞬じゃな。
「どうも明の大軍に小西軍は全滅させられたと意気地がなくなったようじゃな」
ふむ、ふむ。パチリ。
「昨秋には中川殿が鷹狩しておるところ、朝鮮の義兵に襲われて討ち死にしたことが
あったじゃろ」
ふむ、ふむ、ふむ、パチリ。
「おお。後詰といっても、安穏ではなく義兵の襲撃を受けていたんじゃろうね」
「朝鮮の義兵は、鉄砲を撃ちかければ算を乱して潰走するが、指揮官がどこにおるやら
分からぬ奴らじゃ。やっつけても、やっつけても、きりがないし、隙を見せれば、必ず
襲ってくる。大友も、奔命に疲れ果てておったんじゃろうね」
流石、前田慶次、戦場心理を心得ている。

375日曜8時の名無しさん2020/09/20(日) 16:38:08.14ID:Ivl4upej
第四十七話「秀次事件」(9)

義兵とは、一揆みたいなもんじゃろうな。謙信公にとって、最強の敵は信玄公でも信長で
もなく越中の一向一揆じゃからのう。願文を書いたくらいの強敵じゃからのう。敵の大将
討ち取って、勝ったというわけにはいかぬから、難しい。前田も一揆鎮圧には苦労してお
る。信長公の越前回復の戦では、一揆勢を皆殺しにしておるし、そういえば釜茹でにした
こともあったと聞いておるぞ。
朝鮮でも皆殺しにしたり釜茹でにしたりして、敵の抗戦意欲を叩きのめさなければならぬ
のじゃろうか?

376日曜8時の名無しさん2020/09/22(火) 22:04:27.58ID:rGP/ez/H
第四十七話「秀次事件」(9)

「大友は漢陽まで逃げたが、その後ろの黒田勢は撤退せず、小西勢を収容した。しかし、
平壌に残した負傷兵は殲滅され、後退中に落伍した者も、みな殺されたようじゃ」
さすが、黒田官兵衛の息子じゃな。名門貴族の成れの果ての大友とは胆力が違うな。
「明軍は、平壌を掃討するとき、生きておるもの、みな殺したという噂もある。そして
水増しした戦果を皇帝に報告したという話もあるようじゃな」
どこから、そんな情報を仕入れてくるのか、前田慶次。お前は、いったい何者じゃ?
「明軍の乱暴狼藉は、日本軍以上で、朝鮮の民草は山谷に逃げ隠れており、平安道には
人影がないらしい」
「朝鮮の民草の首を斬って戦果にしたのじゃったら、仕方ないな」
無茶苦茶の地獄絵図じゃな。

377日曜8時の名無しさん2020/10/18(日) 22:32:12.73ID:DNB3uoy+
第四十七話「秀次事件」(10)

「総大将宇喜多秀家殿や三奉行(増田長盛・石田三成・大谷吉継)それに黒田官兵衛殿
と諸将の討議が行われ、全軍を漢陽に集結させて、明軍と決戦することとあいなった」
ふうむ、パチリ。
「石田などは、兵站も切れておるので、釜山まで全軍を退却させて後図をはかるべきじゃ。
と主張したが、流石に、それは却下されたようじゃな」
ふむふむ、パチリ。
「ちょっと、休憩じゃ。この地図をご覧あれ」
前田慶次、朝鮮の地図を取り出す。
「ここが漢陽で、ここが平壌じゃ。その間に、開城という都市がある。朝鮮の古い都じゃ。
この開城に駐屯していた小早川隆景殿が、撤退命令に従わないのじゃ。もう年じゃから、
どこで死んでも惜しい命ではない、とか申されて、撤退しないのじゃ」
「ふうむ。小早川隆景殿は、毛利の総帥、厳島合戦にも参陣しておる百戦錬磨の名将じゃ
から、宇喜多殿や三奉行程度では抑えきれまいな」
どう考えても、司令官人事、間違っておるな。そもそも太閤殿下が親征される予定なのじ
ゃから仕方ないともいえるがな。
「安国寺が説得に赴いたが論破され、大谷殿が出向いて、ようよう説き伏せたそうじゃ」
大谷刑部殿は、人に好かれるお方じゃからな。よい人が前線に居ってよかったわ。

378日曜8時の名無しさん2020/10/19(月) 23:02:40.55ID:H6A9zzHa
第四十七話「秀次事件」(11)

「小早川殿は、漢陽まで撤退したが、城内には決して入らず城外に布陣したままじゃった
そうじゃ。包囲されて、大砲を撃ち込まれたら勝ち目がないと申されてな」
城内に入らないのは野外決戦に意思統一するためなんじゃろうね。
「それで、漢陽郊外の碧蹄館で迎撃することになった」
ふむ。パチリ。

379日曜8時の名無しさん2020/11/01(日) 23:35:47.99ID:AmL5nOF+
第四十七話「秀次事件」(12)

「漢陽を出陣した軍勢の先鋒は、立花宗茂殿とあいなった。小早川隆景殿の熱心な推挽
によるものじゃ。なんでも、元就公が北九州に兵を進めたとき、立花の父親の奮戦で大
友が勝利したことを覚えておったらしい。昨日の敵は今日の友ということじゃな」
ふうむ。小早川殿は、毛利の山陽道の司令官として、太閤殿下と戦ってきたお方じゃ。
士は己を知る者のために死すというが、新付の清水宗治も、毛利への忠義を貫いて高松
城で切腹しておる。人望の篤い名将なんじゃね。

380日曜8時の名無しさん2020/11/08(日) 22:43:48.80ID:Vh20ZSz6
第四十七話「秀次事件」(13)

「平壌から開城を経て南下してくる明軍と、碧蹄館で会戦することになった。
明軍は、旗鼓整々、一分の隙もない陣立てで攻め込んできた。明軍は毒矢を使うので
先鋒の立花勢は戦死者が続出した。しかし立花宗茂は怯まず、明軍に突っ込んだ。
明軍は総勢二万余、立花勢は三千、少しずつ押されながら後退した」
ふうむ、パチリ。

381日曜8時の名無しさん2020/11/17(火) 23:02:56.39ID:N88yJu/C
第四十七話「秀次事件」(13)

「立花勢の後には、第二陣として小早川隆景殿の八千、第三陣が小早川秀包殿の五千、
第四陣が吉川広家殿の四千の兵が続き、碧蹄館の左右の丘陵に布陣しておった。先手の
総大将は小早川隆景殿じゃ」
ふうむ、小早川秀包殿は隆景殿のご子息じゃな。
「小早川殿の作戦は、谷間に誘導して左右から挟撃することじゃったのじゃが、立花勢
が奮戦しすぎて、明軍の戦死者が二千を超え、攻勢が頓挫したので、誘導が上手くいかず
小早川殿は立花殿に使者を走らせて叱責したそうじゃ」
ふうむ、パチリ。
「しかし苦戦に頭に血が上った明軍が大攻勢をかけてきて、作戦はうまくいった。左右か
ら突撃し、小早川本隊も押し出した。明軍は二十万とか言われておったが、案に相違して
二万程度じゃったようじゃな。二万対二万の大激戦となった」
ふうむ。
「明軍は功を逸って軽兵で攻め込んできたわけか」
「ふむ。なんでも日本軍の精鋭は平壌で全滅したと思ったようじゃな。実際、小西勢・大
友勢は漢陽にとどまっておったからのう。日本軍の先鋒は壊滅したと思ったのじゃろうな」
「日本軍の後詰には、黒田殿、三奉行、宇喜多殿の軍勢も控えておったから、思い切り戦
うことができたのじゃな」
ふむ、パチリ。
「小雨の降る泥濘の中、騎馬の威力を発揮できない明軍は、日本軍に白兵戦に巻き込まれ
戦死者が続出し、ついに撤退を始めた」

382日曜8時の名無しさん2020/12/20(日) 21:15:37.37ID:IJ9MFEpK
第四十七話「秀次事件」(14)

「総退却となった明軍を追撃して、得た首級は六千余。大勝利とあいなったのじゃ」
パチリ。
「明軍は戦意を喪失して、平壌まで退却したようじゃな」
パチリ。
「やはり鉄砲が決勝兵器ということかな」
鉄砲隊の強化に腐心する兼続らしい感想をもらす。

383日曜8時の名無しさん2020/12/21(月) 08:14:16.18ID:dKp24KZZ
この大河微妙だったけど、三成が秀吉にお茶を三杯上げるシーンが泣ける
昔のように、気を利かすのです
秀吉はボケているんだと思うけど、だからこそ泣けますな

384日曜8時の名無しさん2021/01/02(土) 22:45:28.82ID:51WL//7q
第四十七話「秀次事件」(15)

ところが碧蹄館で大勝した日本軍は、釜山に総退却することになってしまった。
「なんでも、漢陽付近の朝鮮の城を攻めて、反撃され、宇喜多殿などが負傷する苦戦と
なったこと。漢陽郊外の食糧貯蔵庫が朝鮮の決死隊の焼き討ちにあったためらしいのう」
流石!前田慶次、情報がはやい。
釜山から漢陽までの補給ができないんじゃから、仕方ないのう。
朝鮮の堅壁清野作戦が成功したともいえるな。
結果的に、そうなっただけじゃが。民草を守れず、飢え死にさせて。
しかし民草は苦しめば苦しむほど、侵略者への憎しみをたぎらせることになる。
朝鮮の民草全部を敵にする戦は難しい戦になるじゃろうな。
太閤殿下のお心の内はどうなんじゃろ。

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