少数派なのはわかっているが、俺は両津姫が好きだった。
姫が風林火山を見続けた理由の一つだった。

高貴な家の巫女として育ち、現実世界のドロドロなど理解する気などカケラもないはずなのだが、
生身の男(しかも敵)を愛してしまい嫉妬心に振り回されつつも、
神の声を聞く女としてのプライドを保とうとし、
現実とあるべき姿の間の乖離が、彼女自身を破滅へと追い込んでいく、
という井上靖(原作者)が描くところの姫の美しさと、

最初はその気高さに打たれたにすぎない勘介は、のちに姫の見栄と狂気と苦しみの中に憐れを見出し、
しかも姫を生かすも殺すも醜い中年の自分の裁量次第だという現実の前に、
疑似恋愛の関係へとはまり込んでいくが、
そのことが、才能を見出し世に出してくれたお館様への忠誠や
立身出世の野望に風穴をあけてしまい、
ついには武田の滅亡の遠因をつくる、という大森脚本の見事な連携なのだが、

こんな規格外の女と男の奇妙な恋愛関係は、両津だから描けたと思っている。
新人女優のぎこちない演技が、硬質で現実離れした姫のイメージのツボにはまって輝きまくっていた。
いつもはさしたる美女には見えないが、ふとした瞬間にとてつもない美を放つ女になるところもイイ!