里見へ

この手紙をもって余の戦国大名としての最後の仕事とす。
まず、余の領国を保全するために、徳川家康に安定統治をお願いしたい。
以下に戦国大名についての愚見を述べる。
戦国大名を考える際、第一選択はあくまで合戦であるという考えは今も変わらぬ。
しかしながら、現実にはわが北条家自身の場合がそうであるように、中央政権と接触した時点で混乱や破綻をきたした進行症例がしばしば見受けられる。
その場合には、情報分析に基づく外交政策の確立が必要となるが、残念ながら未だ満足のいく成果には至っておらぬ。

これからの大名の生存は、戦場以外の情報戦の発展にかかっておる。
余は、そなたがその一翼を担える数少ない関東大名であると信じておる。
能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。
そなたにはお家の存続に挑んでもらいたい。
遠くない未来に、天下人による地方政権転覆がこの世からなくなることを信じておる。
ひいては、余の屍を病理解剖の後、そなたの生き残り戦略の一石として役立てて欲しい。
屍は生ける師なり。

なお、自ら戦国大名の第一線にある者が時代に対応できず、収拾不能の小田原評定で自滅することを心より恥じる。

北条氏政