問 あの時分に評判の好かった人はどんなでした

答 どうも 表の役人を奥で評判のしようもございませんから存じませんが 
  あのときは掃部殿は昭徳院様の御元服の御祝を申し上げて 宅へ帰って御能を
  いたして鼓が裂けました そのときに これは上の御身の上に何か
  凶事がなければよいが といって心配したと申すことで 
  間もなく自分が難に遇いました こういう話を承りましても 
  誠に上の事を思っていた人と存じまして 何もわけは分からず 
  掃部殿は可哀想だと申しました

問 紀州から御這入りになった方が善いと思いましたか 
  慶喜様の御這入りになった方が善いというのでしたか

答 まず十人まで紀州の方を望みました それは天璋院様が紀州を好いとして
  おられましたからでございます 
  それに前の有徳院様も紀州から御乗込みでございました 
  それらのわけもございましたからです