幕末・維新ものの最高のドラマ「翔ぶが如く」

 幕末・維新もののドラマは、テレビ・映画を通じて数多く作られているが、骨太のテーマに正面からぶつかって取り組んだ本作が最高の出来だと思う。
脚本、配役、演出、音楽、すべてにおいて本作を越えるものはない。今後も、これを越えるものは出来ないと思う。

 この秀作を生んだ最大の要因の一つは、西郷隆盛と大久保利通を演じた西田敏行、鹿賀丈史お二人の演技力にあると思う。
平生はもの静かで優しかったが、一旦事あるときの爆発力はすさまじかったと云われる西郷を西田が渾身の演技力で見せる。
そこには、いかにも絣の着物が似合いそうな朴訥で誠実で、とてつもなく心の広い西郷さんがいる。
一方理知的ではあるが、冷酷なまでの決断力と行動力で周囲を引っ張ってゆく政治家大久保を演じた鹿賀の演技もまたすばらしい。

 よく考えてみると、西田、鹿賀お二人とも年齢的に一番いい時期にこのドラマに出演したと思う。
最初の青年時代を演じるには年齢的にぴったりではなかったかもしれないが、そこは溌剌とした演技力で十分カバーしていたと思う。
逆にこの年齢で演じたからこそ、倒幕へと向かうほとばしるエネルギーと貫禄が出せたと思うし、また維新後の両雄対決の迫真の緊張感も出せたと思う。
 主役の二人に限らず、出演の俳優さん達は男女を問わず、いずれも適役で、熱演を見せてくれる。
今どき、これだけの役者さんを揃えるのは、およそ不可能だろう。

 洋行帰りの村田新八が弾く手風琴のメロディーが、西郷軍が最後に城山に立てこもってからの場面で、何度かとても効果的に使われている。
西郷自決の場面の直後、妻のイトが佇む家の前にサーっと舞い上がる一陣の風と、そこに流れる手風琴のメロディー。
一瞬、まるで西郷が妻のもとに帰ってきたかのような錯覚におそわれる。
ちなみに、村田新八の手風琴はドラマでの作り事ではなく、洋行中に習った本当のことと、歴史書に書いてあった。
ついでにもう一つ、彼が田原坂でフロックコートを着て戦ったのも本当とのこと。

 何はともあれ、この大河ドラマは、何度見ても画面から熱気があふれ出してくる。
製作に関わったすべての人々のエネルギーの結晶であると云ってよい。