視聴者は、歴史の変遷や結末を知っています。
歴史をなぞるだけであれば、決して面白くなかったはずです。
「翔ぶが如く」が感動的なのは、人々が、懸命に生きているということが分かるからです。
大きな社会的制度的な変遷の間で、その流れの先を行く者、流を作るもの、それに巻き込まれていくもの、置いて行かれる者、先が見えて手を打つことができる者、先を見誤り命を落としてしまう者、
それらが全て、大きな音を立てて流れていくようでした。

とにかくかーっとなって暴れてしまう有村俊斎(佐野史郎)、
蜂起を急いでしまい、同じ薩摩藩士にとどまるように説得される有馬新七(内藤剛志)、
若者の心境もよく分かるのです。
一歩ひいて冷静に世の中を見つめることができるのは大山綱良(蟹江敬三)、
いろんな立場や人生があるので、なかなかうまくまとまらないのです。
坂本竜馬(佐藤浩市)や岩倉具視(小林稔侍)らの倒幕を進めるあたりの戦略的な動きがとてもよい。
彼らは既に幕府に任せていれば欧米列強によって侵略されると予測します。
特に岩倉具視の暗躍しながら、表向きはふにゃふにゃしながら、時には鋭い眼差しで睨みつけながら、歴史をひっぱっていく姿は、印象的です。
徳川慶喜(三田村邦彦) の大政奉還のあたりは、まるで頭脳戦のようでカッコいい。
江戸火消の新門辰五郎(三木のり平)あたりの庶民がきちんと描かれているのもいい。
山内容堂や島津久光(高橋英樹)は、
古い感覚を持ちながら、
いわば時代の流れを読み取れない者という描き方をしています。
愚かな判断、見通しを誤った者というのをたんなる愚か者として描くのではなく、
それはそれで力強く信念を貫き通して生きているように描くのです。
「彼の心境も分からないではない」と視聴者に思わせるように描くのです。
島津久光は、ほどよいズレ加減で、ちんぷんかんぷんなことをするのですが、
少なくとも世界のことよりも薩摩藩のことを愛している
ということは十分に伝わります。
彼があれだけとんちんかんだったからこそ、
部下たちが上司をうまく操り、活発に奔走できた、というふうに見えてきます。