明治維新後の政治内部のごたごたも、非常によく描かれています。
欧米視察組と、日本に残る組との葛藤は、よく分かります。
板垣退助(斉藤洋介)や江藤新平(隆大介)のような、
薩長から距離を置かれていく土肥の人々の心境や葛藤もよく描かれています。
西郷と大久保は、ドラマの前半では、多くのことを熱く語っていましたが、
後半になるにつれて無口になっていきます。
「いろんなことを思っているにもかかわらず、寡黙にならざるをえないんだな」
と思わせるようなそういう雰囲気がありました。
佐賀の乱と西南戦争は、ドラマのクライマックスです。
人々は事実よりも印象や噂で動いてしまう、
不満を持った人々は、陰謀論を持つようになる、自分の辛い気持ちを外に向けて処理しようとする、そして戦争になり、多くの人々が死んでいく。
そんな教訓は、このドラマから十分に得られます。
村岡新八(益岡徹)や桐野利秋(杉本哲太)たちの最後の戦いは壮絶です。
城山に集まる若者たちは、異様なまでに明るく、まるで子どものようです。
全ての人物が自分の信念で真剣に生きているのです。
その結果、多くの若者が死んでいくのです。
武士として生まれ武士として生きようとしてきたにもかかわらず、
維新で一変してしまい、最後には大砲や機関銃で殺されてしまうのです。
政府の側の人間も、誰一人として喜んでいません。
古い時代の古い価値観に縛られ、
自分を慕ってくれる若者たちに囲まれて死んでいく西郷、
使命感を持って新しい時代を切り開き、
全てに対して疑心暗鬼になりながら暗殺者の前に倒れる大久保、
その対照的な姿を、
余計なBGMやお涙シーンを殆ど排除して淡々と描いていく。
とてもいいです。
西郷隆盛の妻いと(田中裕子)は、
最初に登場した時には本当におてんば娘として描かれていました。
それが後半になるにつれて力強い母、それでいて深みがあって愛がある
という立派な女性として描かれていました。
最後の最後に芦名千絵(有森也実)が出産するというシーンがあります。
いとは「急いで生まれてきて急いで死んだら意味がない」
というようなことを言います。
さらりとしたシーンでしたが、素晴らしいシーンです。
ドラマの99%は戦って死んでいく男たち、
使命のために命を落としてもいいと思う男たちを描いているので、
最後の最後のこのシーンでは、生命の誕生と女性を描いているのです。
だからといって「戦争反対」とか「男女平等」
みたいな主義主張があるわけではないのです。
いろんなものを描くこと。
それによって深まりが出てくるのです。
汚いものをずっと見た後に美しい花を見ると感動するのと同じです。
激しいものを描くためには、その直前の静寂を描かなければならないのです。
薩摩の方言を出来るだけ再現しようとしたあたりも素晴らしい。
本当にうまくいっていたのは最初の田舎武士の頃だけです。
明治維新を成功させて、歴史の表舞台に出れば出るほどうまくいかなくなります。
それでも、何度も努力し、それが全てうまくいかない、
まさに歴史とはそういうものだと思わせるだけの十分な説得力がありました。