そんな黒田とは非常に対照的な人物が同じ薩摩藩出身者にいます。それは大山巌という人物です。
 西郷の従兄弟であり、後年は陸軍元帥の地位にまで登りつめた大山は、自分の能力についてわきまえていたと言いますか、
よく理解していた人物で、生涯軍事方面の官職にしか就きたがらず、誰に何と言われようが、そして請われようが、政界の表舞台に出ることは一切ありませんでした。
 大山は軍人である自分が政治に口を挟むことを良しとしなかったこともありますが、自分自身が政治の世界には向かないことを重々承知していたように思われます。

 しかし、大山とは対照的に黒田はそれが出来なかったのか、しなかったのかは今では分かりませんが、結局は政界の表舞台に出ることになってしまいました。
 幕末の頃、西郷に「末が頼もしい人物」と評され、誠心誠意溢れ、勇気ある人物として期待されていた黒田は、その後はまるで人が変わってしまったかのように、酒に溺れ、乱行を繰り返すような、いわゆる酒乱になり果てました。
 黒田の変貌ぶりは、薩摩藩閥を背負わされているという、ある種の大きなプレッシャーが一つの原因となっているかもしれません。