匣の中にはゴーンがぴったり入ってゐた。
ミスタービーンのやうな顔だ。勿論善く出来た楽器に違ひない。
なぜ楽器の箱に入ってゐるのだらう。
何とも間抜けな顔なので、つい微笑んでしまった。
それを見ると匣のゴーンもにつこり笑って、「ほう。」と云った。
ああ、生きてゐる。
何だか男が酷くうらやましくなつてしまつた。