怨霊と化して荒れ狂う崇徳の呪詛が、いよいよ激しく平家納経を厳島へ運ぶ船上の清盛一行を襲う。
弱気になる一門。西行は無心の境地で読経を続け、崇徳のパワーを鎮めようと必死だ。
あわや壇ノ浦に先んじて平家一門は海の藻屑となってしまうのか?
そこに清盛の声が鳴り響いた「鱸丸、お前が頼りぞ行けーー」
盛国はハッとなり海に生きる者の矜持が呼び起こされた。「お任せあれ!」
装束を投げ捨てた鱸丸は、もう一人の海の男ー兎丸らと力を合わせ、嵐に煽られる船を操り危機を救った。

沈着冷静な頭脳と気配りで清盛をサポートする盛国が、屈強な元漁師鱸丸に戻った瞬間である。
ここで重要だったのが、キーワードの一つでありシンボル操作の一つでもある「体の軸と心の軸」。
1話で忠盛は、舟の揺れにフラつく平太に、鍛え抜いた鱸丸の体の軸と心の軸、両者の相補関係を説いた。
その鱸丸は、海賊討伐の軍議の場で、舐めてかかる忠清に思わず口を挟んで海の怖さを説いたものだから、
激怒した忠清から「胸ドン」を喰らってしまう。しかし、鍛えた鱸丸はビクともしない。
これらの前史を踏まえて、筆頭家人となった盛国が、再び持ち前の「体と心の軸」を船上で発揮して
平家の危機を救ったのがこの場面である。

しかも軸問題はこれで終わらない。かつて脳筋の力持ちだった忠清は、上昇平家が貴族化するにつれ次第に
居場所を失っていく。veteranの悲哀を若い世代の知盛や重衡から実感させられた以降、老いの色を一層
深めた白髪だらけの忠清が、死を賭して発した諌言こそ、あの「殿はもはや武士にあらず」である。
そして、立場が逆転した盛国が今度は忠清を「逆胸ドン」する場面がやってくる。「お前が殿を支えずに何とする。
これまで通り武により殿をお支えせよ」ー叱正する盛国から胸ドンされた忠清は、ビクともしなかった・・・

かくも驚きのスパンで俯瞰された人間ドラマを見せられると、伏線回収!などと軽々しく言うことはできなくなる。
清盛は、即席一過性のお涙頂戴的感動からはおよそ遠いドラマであった。逆胸ドンはしっかり見てきた者のそれこそ
胸を強く打ち、さらにさらに、最終回では「盛国、いいや鱸丸」にダメ押しされる展開が待っている・・・