11月13日(火)朝日新聞東京版朝刊文化面・呉座勇一の歴史家雑記

ドラマ「真田丸」の妙

私たち日本史研究者の間では、NHK大河ドラマの評判は芳しくない。専門家だから、
つい厳しい目で見てしまうのだ。しかし私たちは、「この時、誰それはここには
いなかった」といった揚げ足取りばかりしているわけではない。そういう細かい
事実関係より、世界観の方が気になる。

近年の大河ドラマで顕著なのは、現代的価値観を持ち込みすぎている点である。
上級武士が側室を持つのが当たり前の社会で、正室があからさまにヤキモチを焼く。
戦乱が日常的に起きた時代に主人公が平和主義を唱える。登場人物が現代日本のような
言動を繰り返すのでは「チョンマゲをつけた現代劇」であって、歴史ドラマとは
言えない。

とはいえ、現代的価値観と懸け離れた思考の登場人物ばかりでは、視聴者が感情移入
できない。この点、巧妙だったのが一昨年の「真田丸」で、視聴者の分身を劇中に
登場させた。それが真田信繁(堺雅人)の幼なじみという設定のきり(長澤まさみ)である。
彼女は現代的価値観を現代的な言葉遣いで語り、作品世界では明らかに浮いていた。
それは、彼女が視聴者の代弁者だからに他ならない。現代人が戦国時代に
タイムスリップしたら、彼女と同様に浮き上がってしまうだろう。

要するに、現代的価値観を作品の基調にするのではなく、スパイス的に用いるべき
なのだ。今後の大河も見習ってはどうだろうか。

(歴史学者)