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>朝倉様をよく知っているけれど、一乗谷でのほほんと歌でも詠んでいるのがお似合い、将軍家を支える器量はないと、
>厳しい審判を下すのです。
>普段は愛想良く舞いつつ、そう判断している伊呂波太夫はやはり怖いものがあります。背中には孔雀の羽がついてい
>る。地球を回ってきたこんなものを身につける彼女は、情報だって吸い寄せる。見識も鍛えられています。

>それからもう一押し。
>明智様は不思議なお方だと言います。亡き将軍の義輝様も、斎藤道三様も、松永久秀様も、とどめておこうとする。
>自分の妹のような駒ちゃんも、明智様の名が出ると顔色が変わるのだと。
>そうフフフと含み笑いをする伊呂波太夫は、今週も絶品の酔わせる色気を振りまいています。

>「駒殿、息災ですか」「はい、達者でおります」
>光秀はここできっちり、かっちりと生真面目に返す。「えへへっ、駒ちゃんか」というようなデレデレした態度とは
>無縁です。

>「そういうお方が、もう十年近くもこの越前に……そろそろ船出の潮時なのではありませぬか?」
>ここで光秀は苛立ち、盃を投げて立ち上がります。伊呂波太夫は人心掌握の達人だから、球をいくつも投げています。

>義景への不満?駒の名を出して情愛の深さを見る?ここまで投げて、次は野心に火をつけました。
>「あいにく船出の船が見つかりませぬ」「その船の名は、すでにお分かりのはず……」
>ここで光秀の目の色が変わる。

>高度な心理の攻防が続いています。
>「織田信長。帰蝶様が仰せでしたよ。十兵衛が考え、信長様が動けば、かなうものなしと。お二人で上洛されればよい
>のですよ。上杉様も、朝倉様も、不要ではありませぬか」

>光秀の顔に、ありありと何かが滲んでいます。
>静かな水面に石が投げ入れられたように、ざわざわと何かが変わりつつある。

続きます