第四十六話「文禄」(46)

「直江殿、元気にしておられたか」
急に前田慶次が訪ねてきた。
「わしは、大宰府に行ってきた、帰りじゃ」
どうせ、また和歌の名所めぐりかなんかじゃろ。

「ところで、梅北一揆の詳細は聞いておられるか」
「なんでも島津の家臣が、名護屋に向けて移動中に、肥後で城を占拠したとか」
さすがに、少しは知っている兼続である。
「残念なことに、首謀者が騙し討ちにあい、三日で鎮圧されたようじゃな」
いつものように遠慮のない慶次。ずけずけ、ものをいう。
「謀反が長引けば、征明どころじゃなくなるところじゃったのに」
こいつは、それがしが、心の奥底で、太閤殿下に反感をもっておることを見抜いておる
んじゃろうな。
「折角、天下一統がなり、太平が招来されたのに、またぞろ征明の戦とは、
秀吉は狂っておる」
酒もそこまで飲んでないのに、かなり危険なことをいう慶次。
こいつは太閤殿下の諜報機関が怖くないのじゃろうか。
前田利家様が言わせておるんじゃろうか。
いや、こいつは、そんなむつかしい腹芸ができる男じゃないな。
純粋に理想的な武人であろうとしておるんじゃろうな。