>地方の自治体にとって大河ドラマの舞台となることは朗報だ。
観光客を呼び込み関連の事業も活性化する。そのため誘致に必死になる……。
 誘致活動の内容は、知名度向上と啓発、署名活動、NHKへの陳情などが主なもの。

近年、誘致活動が実った成功事例は『天地人(2009年)』『江〜姫たちの戦国(2011年)』
『軍師官兵衛(2014年)』『真田丸(2016年)』『西郷どん(2018年)』
『麒麟がくる(2020年)』が官民連携の誘致活動が実ったとメディアが伝え、
決定のニュースに、ご当地は喜びに沸く。

 朝日新聞記事によると『大河に取り上げて』と要望がある歴史人物は30人ほど。
「採否を分けるのは1年間の放送に堪えるエピソードがあるか、
その人生に現代と共通するテーマがあるかの2点」で「地元の声も参考意見にさせてもらう」
とNHK広報部が述べている。

 誘致活動で提案される人物は多様だ。加藤清正(熊本県熊本市・愛知県名古屋市)、
徳川光圀(茨城県水戸市)のように時代劇などでおなじみの人物、
大友宗麟(大分県大分市)、伊能忠敬(千葉県香取市)、ジョン万次郎(高知県土佐清水市)など
歴史教科書に登場する人物のほか、戦国期の北条五代(神奈川県小田原市)、
朝倉五代(福井県福井市)、里見氏(千葉県館山市)のように一族をまとまりにした誘致活動もある。
 木曾義仲・巴御前(富山県小矢部市など6県41団体)や三浦按針(大分県臼杵市、
静岡県伊東市、神奈川県横須賀市、長崎県平戸市によるANJINプロジェクト)など
広域連携の誘致活動も進められている。

 魅力的であるが、一般にはほとんど知られていない人物も多い。
たとえば、幕末・備中松山藩(岡山県)の陽明学者・山田方谷。
誘致活動は地元出身の著名人・財界人からも支援を受け77万筆の署名を集めている。
 幕末の薩摩藩士・村橋久成は藩命で英国留学、戊辰戦争に参加。のち開拓使につとめ、
麦酒醸造所を建設、軌道に乗せた。北海道を舞台として誘致活動は札幌市を拠点としている。

 なぜ誘致活動は各地に広がり盛り上がっているのか。『大河ドラマの50年』(中央公論新社)の
著者・鈴木嘉一氏は「文化的公共事業」「特需」というキーワードで近年の状況を説明する。
観光客の増加、大河ドラマ展示館による交流と集客、最近では放送に合わせて自治体や
観光協会などがドラマ関連のゆるキャラを企画、大河ドラマ観光のアイコンとなり、利益を生む。
各日銀支店やシンクタンクが大河ドラマの経済効果を100億円規模と試算しており、
ドラマの文化的公共事業としての波及効果は大きい。大河ドラマは、短期的・特需的であるが、
観光復興から人的交流や地域の知名度向上に至るまで、地域に好循環を生み出す機会と期待される。
 
この盛り上がりには政治的要因もある。大河ドラマ誘致は地域活性化の切り札のように扱われ、
成功すれば多数の人々に相応の分配が期待できる。また誘致活動で、首長・地方議員、
自治体は諸団体のまとめ役・調整役となり必要な予算措置が求められることもある。
各地方議会では大河ドラマ誘致の議員連盟が官民の誘致活動に先駆けて(併行して)つくられることが多い。
自治体首長が中心となり県を挙げて大河ドラマの誘致を宣言するケースも出てきた。
こうして誘致活動は地方政治の利害関心の範囲に組み入れられつつある。
誘致の提案が採択されないと「落選」と伝えるなど地域メディアも過熱気味だ。