(つづき1)
意訳

矢部*1
「あなたは川路三左衛門*2と親しいそうだが、川路や岡本忠次郎は勘定所の出身だ。
勘定所は能力のあるものが採用される部署なので、川路も岡本もその後の業績が立派だ。
私が三百俵の番士*3から南町奉行まで出世したのは能力ではなく、みな賄賂によるものだったから
さぞかし人々が笑っているだろうと思う。」
(と話す様子が取り繕うところがなく、堂々とした様子だったので)
藤田東湖*4
「確かにあなたと川路等とはコースが違ったから出世の仕方も違うかもしれない。賄賂を使うのは
褒めたことではないが、考え方にもよる。自分が豊かになり安楽に暮らせることを願って賄賂を贈る
場合もある。また、無欲で何もしないでいたら名も残さず世のために尽くす仕事もできない、
それならば少し道を曲げてでも出世コースへ出て、世のために尽くし後の世に名を残したいと願い、
賄賂を贈る場合もあるだろう。この二者はやることは同じでも志が違う。」
(と答えたので矢部は喜んだ。)