>>21
慶喜「ところで、あの大きな犬のような男はいずれに(と、はぐらかす)」
久光「は?」
慶喜「斉彬公ご寵愛の、西郷吉之助でござるよ」
久光「あん者は(といいかけるが)」
慶喜「きょうのお供におらぬのなら残念。よくよく、しかっておこうと存じたものを」
久光「おそれながら、きゃつは一橋公にまで、ご無礼をば働きもしたか」
慶喜「いや、天下のためでござる」
久光「は?」
慶喜「かの者、斉彬公のご薫陶を受けた身でありながら、
閣老どもをつけねらい、ただ力で押すがごとき薩摩の悪評を未然に防ぐこともできぬとは、
日本国の土台をも揺るがすことになる、
大うつけ者でござる。
もっとも、あの悍馬、斉彬公みずからでなければ、
手綱はさばけぬと仰せられてはおったが」
いささかムッとする久光を、一蔵は慶喜のジャラッとした顔と見比べ、
微妙な雰囲気をかみしめる。